EXTRA!

2002.June.17 th

6月15日(土)午後8時からTVで放映された古舘の買物ブギ!「歯の常識ウソ・ホント」を ご覧になった方はいらっしゃいませんか?この中で、一つ気になる情報がありました。 それは「食後の歯磨き」に関する次のような内容でした。

*口内細菌を悪者と決めつけるから大間違い、食べたらすぐ磨くのは大間違いです!。
*食後30分間、口の中では素敵なドラマが繰り広げられています。

私たちの口の中は中性を保たれています。しかし、食事をする事によりご飯の中に含まれる炭水化物や甘いお菓子などに含まれる糖がお口の中に入ると口内細菌がこれらを分解しようとします。その時酸を発生させてお口の中を酸性にしてしまうのです。酸は歯にとって大の天敵、2〜3分後酸は歯を溶かし始めます。食べたらすぐ磨きなさいと言われたのは、この酸によって歯を溶かさない為でした。しかし、今日の医学では溶けた「歯」が30分でもとに戻る現象が起こることがわかっています。それに一役かっているのが唾液です。唾液は食べ物を飲み込みやすくする役割や、消化する役割を持っています。その成分はタンパク質や水分の他、フッ素アミノ酸、カルシウムなど25種類の成分で出来ています。1日約1〜1.5l出る唾液は、食後は3〜5倍の量が分泌されます。しかしその唾液がどのように歯を治すと言うのでしょう。それは再石灰化です。口内細菌による食物の分解が終わるのは食後2〜3分。口の中は30分程で再び中性に戻って行きます。その際、酸によって溶かされている歯は唾液の成分に含まれるカルシウムを吸収して再石灰化が起こって行くのです。歯の強化に一役かう唾液の成分に含まれるフッ素等が再石灰化で歯に取り込まれると一層丈夫な歯が生まれます。再石灰化は筋肉を鍛えるのと同じことで繰り返す度により丈夫な歯になってゆくのです。

*私たちの口の口内細菌は食べ物を分解します。その時酸を発生し歯を溶かしてしてしまうのです。しかしその後唾液の働きで溶けた歯をもとに戻す再石灰化を繰り返すことで私たちの歯はより一層強くなるのです。

*食後30分間、「歯」にはドラマがあることを忘れないで下さい。

 この内容には、確かに正しいことが述べられています。しかしこの後、司会の古舘一郎氏と東京医科歯科大学大学院助教授 志村則夫先生との間で
       <食後3分以内の歯磨きは「自然治癒力」の遮断行為である!!>
というまとめの力説をされていました。
 
このコメントに関して、私は大いに疑問を感じ、また皆様の中にも何か戸惑いを感じた方がいらっしゃると思いましたので、当医院の患者の皆様には「歯磨き」に関して、院長である私の意見をここに提示し「歯磨き」に対する考えの参考にしていただきたいと思います。

 まず第1に、食後の歯磨きという行為に関する一般常識そのものが、正しく認識されていないと思います。その証拠に、このコメントの後、「世界一正しい歯の磨き方」というコーナーで色々面白くお話がされていましたが、基本的には歯磨きペーストを付けて歯を磨く説明をしていました。当医院の患者さんにはお話していると思いますが、歯磨きペーストを付けて歯磨きをする必要は通常はありません。特に食後は、歯磨きペーストを付けて爽快感を味わいたいと思われる方は別として、この番組の中でも話されていたように、美味しい食後の満足感を味わい、ゆったりとした雰囲気に浸ることは食事のもつ重要な役割の一つであると思います。
 歯磨きというとどうしても、洗面所に行き、お水と歯磨きペーストを使って行う行為であると決めつけてしまうのが一般常識のようですが、歯を磨くのは、特に虫歯を防ぐためには、口内細菌の餌になりうる糖質を長時間歯面に付着しないようにすることが目的なのです。ですから、食後に爪楊枝を使う人を見かけることがあると思いますが、歯ブラシも爪楊枝代わりに使えば良いのです。食事が終わったら、その場で乾いた歯ブラシで食べカスをかき出し唾液と一緒にのみこんでしまうのです。一見汚らしく感じるかもしれませんが良く考えれば、いったん口に入れたものを飲み込むことは全然不自然なことでは無いと思います。

 第2に、「自然治癒力」についてですが、番組の中では、「口内細菌による食物の分解が終わるのは食後2〜3分。口の中は30分程で再び中性に戻って行きます。」と言っていました。現代、我々が食べているような、自然食品とは異なり、加工されたり調理された食材を使った食事では、中和されたとしても、食べかすが歯面に停滞し易く、食後2〜3分で口内細菌は酸を出すだけではなく、細菌たちの住みかとなる粘着性の多糖体を生成し、歯面に付着して行き、これが歯石のもととなります。私は、唾液の重要性、特にその緩衝能力、消化能力、殺菌能力は否定するものではありませんが、現状の食生活環境の中で「自然治癒力」のみでは細菌感染は完全に防げるものでは無いと思います。

 最後に、「歯磨き」についての私の考えを述べておきます。歯磨き(ブラッシング)には目的により2つの磨き方があると思います。一つは、健康なお口の環境を長く保つ為の予防管理を目的とするブラッシング、もう一つは、歯周病や口腔内の歯周組織に炎症がある場合の治療を目的とするブラッシングです。ですから「食後の歯磨き」に関しては出来るだけ速やかに、また唾液の能力を阻害しないように、唾液と一緒に食カスを胃に流し込む、言ってみれば消化補助的ブラッシングを行うことが良いと思います。さらに就寝前に、いわゆる一般常識的な、研磨・殺菌作用等を保った歯磨きペーストやデンタルリンスを併用したブラッシングを行うことで予防管理の目的が達成されると思います。しかし、すでに口腔の健康が害されているときは治療目的のブラッシングを歯科医あるいは衛生士の指導に従って、しっかり行わなくてはならず、簡単ではありません。でも、ブラッシングだけでも、かなりの治療効果は期待できるので、個人にあった指導を受けることが大切です。歯磨きは食後だけのものではありません。現代人にとって、ブラッシングは口腔の健康を管理予防するためには不可欠のものだと思います。